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Buptiga

ぼーかろいどのキャラデザに惹かれた管理人が萌えを語るためのブログ。最愛は白リボンの黄色い子。
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稀もうで

月乃さんにいただいた絵の二人をイメージして書きました。






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「はぁ……」
 傍らであがった大きなため息が、キンと冷えた冬の空に白く溶けた。元日も夕刻に差し迫った頃合い。前後左右を人並みに囲まれて、寒さはいくらか緩和されていたが、ときおり吹き込む風はやはり冷たい。
「やっぱり多いね、人」
 ぼそりとリンが呟く。控えめに言って、境内はとても混雑していた。参道は参拝客で埋め尽くされ、遅々として進まない。賽銭を投げて手を合わせるまで、遊園地の人気アトラクションよりも長い時間を潰すことになりそうだ。
 ようやく列の先から、ざり、ざり、と玉砂利の音が近づいてくる。音に飲み込まれるようにして動き出す列とともに、レンはゆっくり足を進めた。リンも、草履のつま先を見つめながらついてくる。俯けた顔の横で、髪飾りから垂れた組み紐が揺れている。いくらも進まないうちに、参道は再び静かになった。紐の先に付いた珠がちらりと西日を反射して、止まる。
「もう、帰ろうか」
 声をかけると、リンがはっと顔を上げた。
「……なんで」
「や、……疲れたでしょ?」
「べつに、このくらい平気」
 赤い唇をとがらせたリンは、どこか浮かない顔をしている。それが長時間の立ちぼうけにまいったのではないことは、レンにも分かっていた。ただ、他に言葉が見つからなかっただけだ。
「レン、疲れたの?」
「いや」
「じゃあもう少し頑張って。引き返すのも、大変そうだし」
「うん」
 確かに、今更この行列から出るのは至難の業だ。心の中で、レンも密かにため息を吐いた。
 たまには他の「初詣」を見に行きたいと言うリンに、渋りつつも頷いてしまったのは、レン自身が毎年の「元日」に飽きていたからだ。二人でこっそり抜け出してから、リンの目指す先がこの神社だと知って、レンはすぐに後悔した。こんなことなら、はじめから何としても止めればよかった。
 やはり、初音は別格だ。知れたことだが、こうして来てみると改めて肌で感じる。初音が懇意にしているこの神社は、鏡音の自分たちにとっては、敵陣とも言える場所だった。
「交通アクセスの良さと、境内のキャパシティ」
「え?」
「だから一般客も多い。きっとそのせいだよ」
 うちよりも、人が多いのは。口に出さなかったが、リンには伝わったはずだ。自分達が毎年の元日を過ごす神社も、参拝客は相当な数だった。しかしそれは、鏡音の舎弟の数に寄るところが大きい。
「……そうだね」
 一般の参拝も随一であるこの神社を贔屓にできるという時点で、明らかに初音が勝る。リンは反駁せずに頷いたが、唇を噛む様子からすると、レンの言葉が気休めにすぎないことを承知しているようだった。
 彼女はーー初音の娘は、今頃どうしているのだろう。年始の挨拶に、ここには必ず訪れているはずだ。自分たちと同じなら、年越しからずっと社の中に籠もっているのかもしれない。表に出ては混乱を招く。これだけの人出なら、なおさらだった。この参拝客の中には、初音の舎弟も多く混じっているに違いないのだ。
「初詣なんて、何のためにするんだろうね」
「そんな……身も蓋もないことを」
「だって。お金を投げ捨てるためだけに、これだけ並ぶのよ?」
「捨てるって、罰当たりだよ、リン」
 辛辣な言葉に、レンは慌てて周りを見回した。目立つわけにはいかない。ただでさえ、この恰好は人目を引くのだ。女性の和装はたまに見かけるが、男の方まで和装しているのは珍しい。
「まぁ、同じように並んでる私が言えることじゃないんだけど」
「そうだよ。来年はこんなこと、止めよう」
「……」
「じゃなかったら、別の神社にしようよ」
 普通の初詣がしたいなら、来年からいくらでも付き合うからさ。小声でそう付け足すと、鬼が笑うよ、と苦笑された。
 口ではどう言っても、リンが本心から神を蔑ろにすることはない。神社にお参りするときは、祈るのではなく誓うのだと、いつだったかそう教えてくれたのはリンだった。
『自分の願いを神様まかせにしちゃうなんて、失礼でしょ。だから、自分はこうします、って神様に宣言するの。そうしたら神様も、そうかそうかって、力添えしてくれるかもしれないんだって』
 あちらの神主から聞いたというその話を、リンは信じているようだった。だから、リンに教わって以来、レンは参拝のたびに神に宣言している。変わらない誓いを、何度だって。

 めいめい神に誓いを立てて、二人はようやく人混みから解放された。帰りの参道には、お守りや神籤を売る仮設のテントが両脇に立ち並んでいた。遠くには、色とりどりの屋台のテントも見える。微かに漂ってくる香ばしい匂いにお祭り気分を刺激されてか、隣の空気がふと軽くなった。
「ね、おみくじ引こっ」
 一言告げて、人波に消えかけたリンの袖を慌てて掴む。参拝を待っていた時のように身動きができないというほどではないが、このあたりもそれなりに人が多い。油断すればはぐれてしまいそうだった。レンに片袖を捕まえられていることに頓着せずに、リンは人の間を縫っていく。中途半端な距離に、いっそ手を握るべきか、レンは悩んだ。迷っているうちに、神籤のテントへたどり着く。
「二つ!」
「はい。100円ずつお納めください」
 リンが巾着を開けようとしたので、レンは諦めて袖を放した。袷から財布を引っ張り出して、自分の分の100円をリンの手のひらへ落とす。200円出しても良かったが、なんとなく、こういうものは自分のお金で引く方が良い気がした。
「ようこそお参りでした」
 中学生のバイトだろうか。初々しい巫女姿の少女に見送られながら、神籤のテントを離れる。そういえば、リンも以前、あちらの神社で巫女の真似事をしたことがあった。舎弟に気づかれて大騒ぎになったので、すぐに奥へ引っ込むことにはなったが。
「あ、大吉!やった!レンは?」
「……末吉」
再び参道を歩きながら、お互いの神籤を見せ合う。先ほどまでの鬱々とした表情はどこへやら、リンは弾けるように笑った。
「私の勝ちっ」
「いやそもそも勝ち負けじゃ、……!」
リンの軽やかな声は、境内の隅までよく響いたのかもしれない。彼女の肩ごしの向こう、冬枯れの楡の下にたむろしていた者達が、はっと顔をあげてこちらを注視した。どこかで見たような、厳つい面々。

『カガミネーー』

 彼らの口元が、確かに、そう動いた。

「っ、リン、こっち!」
 躊躇うことなくリンの手を掴んで、レンは駆けた。駆けながら振り向くと、男達が慌てたように追ってくるのが見える。リンは振り返らなかったが、レンの視線で事態を悟ったらしかった。
「バレたの?!」
「たぶん!」
 いや、正確には振り返れなかったのだろう。袴のレンと違って、リンは着物だ。普通の娘より着慣れているとはいえ、走るのは難儀だ。しかし、大の男が相手では、リンを気遣ってやる暇はなかった。時折足をもつれさせるリンを、半ばひきずるようにして急ぐ。参道の人々が驚いたように道をあけるのにも、構うゆとりがない。
 油断した。これだけ参拝客が多ければ、見咎められることもないだろうと高を括っていたのだ。
 喧嘩っ早い鏡音の舎弟と違って、初音の舎弟はわりあいに品が良い。力の差が歴然としている故の余裕か、あちらから仕掛けてくることは滅多になかった。しかし、中には血の気の多い者もいるのだ。正式な訪問ならいざ知らず、面先をあざ笑うように忍び込まれては、良い気はしないだろう。
 ふと目の前に影が差して、レンは急停止した。太い腕をすんでのところでかわして飛び退く。いつの間にか前にも回り込まれていた。後ろからの足音も、いよいよ近づく。
 咄嗟に、横の木立へ飛び込んだ。道から外れたそこは、ひどく足場が悪い。いくらも行かないうちに雪駄が木の根にひっかかって、レンはたたらを踏んだ。繋いだままの手に引っ張られて、リンの身体が傾く。転ぶ前に腕を支えたが、その間に男達が迫っていた。
 リンを後ろへ押しやりながら、レンは早口で囁いた。
「僕が……俺が、行く。『お嬢』はその隙に逃げて」
「レン!」
 リンの声を背中に、レンは男達の方へ駆けだした。急に向きを変えたレンに怯んで、男達が止まった。一番手前にいた男が我に返って、大きく両腕を振りあげる。リンが悲鳴のように名を呼ぶのが聞こえた。

 がばり。

 男の胸板にしたたか鼻をぶつけて、しかし、それ以上の痛みは襲ってこなかった。
「若ぁ!良かった!!」
 背中に回った太い腕が、ぎゅうぎゅうと身体を締め付ける。冬だというのに汗臭さが鼻について、レンは息を詰めた。
「おいやめろ、若が潰れてるぜ」
 ようやく解放されて、ふらつきながら男達の顔を見まわす。斜め奥にいた、右頬に傷のある男と目が合った。どこかで見たような……そう確か、昨日の大晦日、鏡音の社の奥で退屈していた二人へ茶を運んできてくれた舎弟の頬にもあんな傷が……。
「お探ししやした。ご無事で何より」
 にっと唇をゆがめて笑う癖は、昨晩と全く同じものだった。


「まぎらわしいのよ!」
 『お嬢』に一喝されて、男達は頑強な身体を小さく丸めた。
「すいませんでした。俺らの顔なんて、いちいち覚えてないっすよね……」
「うっ」
 悄然とうなだれる彼らの言葉は全く間違っていなかったので、リンが気まずそうに頬をひきつらせた。レン自身、改めて見渡しても、うっすら知った顔がいくつかある程度だ。ここ数年で一気に増えた鏡音の舎弟の顔を、すべて覚えているわけではなかった。
 初音の舎弟とばかり思っていた彼らは、実のところ、リンとレンを迎えに来た鏡音の舎弟であった。つまりは、そういうことらしかった。


 二人の不在に気づいて、社は上を下への大騒ぎになったという。ついには捜索隊が組まれ、舎弟達はほうぼうに散った。初音のテリトリーとなるあのあたりは、舎弟の中でも新入りの面子が割り当てられたらしい。レン達が顔を知らなかったのは、そのせいだろう。茶を運んだ男の顔はおぼろげだったが、例えば、その茶を毒味をした男なら、古くからのつきあいだ。彼が来ていたならば、リンもレンも、すぐに気がついたはずだった。
――というのは、ただの言い訳だ。頭たるもの、侍する者達の顔くらい把握していなくては示しがつかない。それどころかよその舎弟に間違えるとは、なんて情けない。
(……って思ってるのかなぁ)
 膨れ面で隣を歩くリンをこっそり盗み見る。舎弟達によって鏡音の本邸へそのまま送り届けられた二人は、親父様にこってり絞られて、やっと自室へ戻るところだった。
「大吉なんて、嘘もいいとこだわ……」
 恨めしい声でリンが呟く。結果的に初音のお膝元を騒がせたことになるので、二人は明日、初音に詫びを入れに行くことになっていた。ぷっくり膨らんだ頬は、あるいはそのあたりが原因だろうか。
 自室へ入って、静かに襖を閉める。先に入ったリンがくるりとこちらを向いた。
 ぱしりと派手な音が、冷え切った部屋に響く。痺れる頬をさすりながら、レンは碧く燃える瞳を見返した。
「……あやまらないわよ」
「うん」
「どうして叩かれたか、分かってるんでしょ」
「うん」
「レンは……っ」
 リンは絶句して、瞳を揺るがせた。
 舎弟の顔を見分けられなかった情けなさ。年始早々から初音に頭を下げねばならぬ悔しさ。けれどきっと、不機嫌の最たる原因は、どちらでもないのだろう。
「どうして、一緒に、逃げなかったの」
「まぁ結局、逃げる必要なかったんだけどね」
「はぐらかさないで」
「……僕は斬り込み隊長だから」
 声をおさえて告げると、リンは顔を歪めた。唇の端をつりあげて、目を細めて、それで笑ったつもりだろうか。
「そんな柄じゃないくせに、……っ」
 手を伸ばして引き寄せる。腕の中の身体は僅かな抵抗をみせたあと、おとなしくなった。
(置いてかないで。)
 小さな呟きが、耳元で消える。めったに聞くことのできない弱々しい声が妙に愛しくて、レンは剥き出しのうなじへ顔をうめた。それでもリンは、拒まない。
 自分の「末吉」の方は、あながち嘘でもないらしい――不謹慎にも、レンはそう考えるのだった。




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