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Buptiga

ぼーかろいどのキャラデザに惹かれた管理人が萌えを語るためのブログ。最愛は白リボンの黄色い子。
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迷道二人(前)

オリザさんリクエストで、酔道二人(前・後)の続きです。


また前後編になってしまいました。後編はちょっとかかるかもしれない。






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 見知らぬ住宅街だった。リンと繋いだ手は、汗でしっとり湿っていたけど、離そうとは思わなかった。くい、とリンの手に引っ張られて、角を曲がる。
「ちがう、こっちじゃない」
 呟くと、リンが泣きそうな顔で振り返った。
「もどる?」
「……もうちょっとだけ、いこう」
 曲がったら、戻るのは無理だ。その代わり、次の角では俺が手を引いた。リンのためらいが、手をとおして伝わってくる。それを無視して先へ急いだ。
 曲がった瞬間、俺は悟った。違う。こっちでもない。今度は、リンの方が、正しかったのだ。
 立ち止まろうか迷って、リンの顔を盗み見ると、リンもこちらを見ていた。どきっとして、足が止まる。自然と向き合う形になったはずなのに、リンの表情はぼんやり霞んで分からない。でも、小さな赤い唇だけが、妙に鮮やかで。
「ーーーーーーート、」
 いつのまにかあたりは住宅街ではなく、狭くて暗い部屋だった。リンの唇だけしか見えないのは、お互いの顔が近すぎるからだと気づく。
「……リっ、」
「ーーーラーーット、」
「え?」
「テキーラショット、たのも?」


「……は?」
 寝起きでひび割れた声が、部屋の天井に跳ね返って戻ってくる。窓の外は仄明るい水色だ。首をひねって壁を見上げると、時計の短針と長針は真っ直ぐにのびている。
「ろくじ……」
 どっちの、6時だ。一瞬まどわされたけど、すぐに思い出した。第一、寝間着にしているジャージを着ていない。
 木曜の今日は講義が3限までで、バイトもないから家に戻って、部屋でぐうたらしていた。ベッドの下に、楽譜が数枚散らばっている。これを見ているうちに、寝てしまったらしい。
 夕寝とは、我ながら良い御身分だ。自堕落をした罰なのか、こういう変な寝かたをする時に限って、嫌な夢を見る。……テキーラショットがオチとは、新しいパターンだった。あれはトラウマだ。もう二度と飲みたくない。
 あの日、飲み会から離脱して、リンと二人でカラオケに入るまでのことは、きちんと覚えている。お互い良い感じにできあがってはいたけど、歩けないほどじゃなかったと思う。でも、明らかに判断力は落ちていた。カラオケでリンがふざけてテキーラなんか頼むから、俺が二人ぶん飲んだ。それが間違いだったのだ。リンに酔われちゃかなわないと思ってのことだったけど、それで俺が潰れたら意味がないのに。たったの2ショットでも、飲み会後の大脳にはダイレクトに響いてしまったらしい。そこから先の、記憶がないのだ。気がついたら家だった。
 リンに渡された3枚のレシートは、今も机の上に置いてある。払いはワリカンで精算した。リンがワリカンを主張したからというのもあったけど、一番の問題は3枚目のレシートだった。ネットで検索するまでもない。あそこは学生料金があるはずだが、レシートを見る限り、俺は学生証を提示しなかったらしい。ーーもしも、何か、あったとして。俺が全額払ってしまったら、お金で買ったみたいじゃないか。
『何かって、何?』
 リンの笑みを含んだ声が脳裏をよぎる。
『何もないってば。大丈夫』
 リンから聞き出せたのは、これだけだった。信用ならない。リンの「大丈夫」も、俺自身の空白も。
 のろのろとベッドから足を下ろす。殺しきれなかったため息が、唇からこぼれた。

 階下に降りる途中で天窓を見上げると、ガラスは濡れて曇っていた。リビングダイニングへ入って、カーテンをめくる。霧のような雨だ。雨が他の音を吸いとって、でも、雨音はしない。どうりで静かだった。キッチンの方から、冷蔵庫が微かに唸るのが聞こえる。
 何か光った気がして、ソファへ目を落とす。放り出したままのカバンの横で、ケータイが青いランプを点滅させていた。受信ボックスを開くと、メールが2通。

Date 15:42
From リン
Sub  冷蔵庫の中みた?
お昼のオムライス、余ったの。良かったらおやつにどーぞ。

 木曜日は、リンの方は3限から5限までが講義で、すれ違いだ。リンがお昼に作ったものを、俺のために少しだけ残しておいてくれるのは、たまにあることだった。バイトがある時は夜食に、バイトがない時は遅めのおやつに、有り難くいただいている。甘いものはあまり得意じゃない。皆でお茶にする時くらいは付き合うけど、進んで食べたいのは甘い「おやつ」ではなく「間食」だ。そこらへんの嗜好を、リンはよく理解してくれている。今日は夕寝を貪ってしまったから、おやつには遅い時間だ。

Date 17:03
From  リン
Sub  無題
今日ちょっと遅くなるから、先食べてて。

 今夜はミク姉もルカ姉もいないし、メイ姉やカイトが帰ってくるという連絡は特にない。リンと俺の二人だけだ。リンが帰るまで夕飯を待っていよう。そう決めて、俺はキッチンへ向かった。夕飯が遅いなら、今の時間に食べても問題ないだろう。
 冷蔵庫を開けると、探すまでもなく正面2段目に、ラップのかかった小さめの皿が鎮座していた。そのままレンジに入れて、温める。ターンテーブルの上で回転するオムライスは、小ぶりながらもきちんと卵にくるまれていた。
 チンと出来上がりを告げたレンジから熱々の皿を取りだして、ダイニングへ運ぶ。熱ではりついたラップをひっぺがすと、湯気がもうと立ちのぼった。流行りのとろとろ卵ではなく、綺麗な焼き目のついた薄焼き卵だ。脇のところが少し破れて中身がのぞいている。チキンライス……いや、ソーセージライス、かな。ぐるりとケチャップのかかった黄色い山にスプーンを入れようとしたところで、手が止まった。
「…………」
 鮮やかな黄色の上に描かれた、ケチャップの赤い図形。ラップで押しつけられたせいか、レンジの熱で流れてしまったのか、少し崩れていたから、その原型に気づくのが遅れた。一般には心臓を表すシンボルだけど、胸とか尻とか木の実とか、起源は諸説ある。日本風に言うと、猪目文様だったか。要はーーハート型、である。
 スプーンを握りなおし、ハートの一部を割って口に運ぶ。一口が大きすぎて、やけどしそうに熱かった。

 半分以上も食べ進んだところで、玄関の扉が開く音を聞いた。
「ただいまぁ」
 リンの小さな声に首をひねって、俺はスプーンを置いて立ち上がった。ダイニングの時計はもうじき6時半。5限まで出席するなら、帰るには早い時間だった。そもそも、今日は遅くなるんじゃなかったのか。
「おかえり、……どうしたの、それ」
 廊下へ出てリンを見た途端、いつくか浮かんだ疑問はかき消えた。
 玄関に立ち尽くしたまま、ぼうっと俺を見上げるリンは、霧雨に髪を湿らせていた。しっとり濡れた金糸が、白く青ざめた片頬に張り付いている。そして、もう片方の頬の顎に近いあたりを、大きな絆創膏が覆っていた。
「今日、ふられた」
 赤い唇で小さく呟いて、リンはへらりと笑った。





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レンくんは、いつからか、カイトさんを呼び捨てにしています。

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こちらは管理人シロセが個人の趣味で萌を語るブログです。同人的要素を含みますので、苦手な方はブラウザバックを推奨します。また、製造元・版権元・その他各企業様とは全く関係ございません。
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