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ひどい年明けだった。これまでにも、喧嘩したりヘマをしたりと、最悪な年明けだと思ったことは何度かあったが、今ではそれさえ渇望する。
焼き場にも年末年始の休みは存在するのだと、初めて知った。棺桶に氷をたくさん詰めて、年始四日まで待つしかないらしかった。
熱の塊を更に強く引き寄せて、目を瞑る。この柔らかな身体も、いつか棺桶に入れば、冷たく強張るのだろうか。日中は何かと用事を見つけて出かけていても、夜はこの家にいるしかない。いくら生前親しかった人でも、同じ家に遺体を置き続けるのは精神を削った。二日目の朝、目の下に隈を作ってきたリンのために、レンはこの部屋に布団と枕を持ちこんだ。
最初はリンの布団の隣に自分の布団を敷いた。布団の境界ぎりぎりまで身を寄せてきたリンを見て、レンは結局リンの布団へ枕を移した。使わなかった自分の布団は、翌朝に自室へ戻しに行った。そんな僅かな間でさえ、リンはレンの傍を離れようとしなかった。部屋の壁にかかったカレンダーが映ると、リンの目に一瞬だけ光がともった。あけまして、と掠れた声を出して、けれどすぐに、彼女は唇を噛んだ。三日目、新しい年は自分達にも、滑稽なほど平等に訪れた。
テレビは消していたが、街に出れば慶びの言葉が溢れている。かといって、家でじっとしているのも嫌だった。今日で四日目。初夢の内容は覚えていなかったし、覚えていたくもなかった。リンは、夢でもやっぱり居なかったのだと言って泣いた。あと二回、夜を数えればいい。火葬して煙になったら、心も少しは軽くなる。そう願った。
「…ん」
抱え込んだ腕の中で、頭がもそりと揺れる。レンの胸板に細い金糸が擦れた。起きるな、と念じて息を殺す。小さく唸ったリンの吐息が、肌を撫でた。どうか、夢なんて見ていませんように。
うとうとと浅い眠りしか繰り返せないよりは、夢も見ない深い睡眠を与えられる方が、きっとましだろうと思ったのだ。けれど、悲しさを忘れるための行為は、虚しいだけだ。疲れ果てて眠りに落ちるまで、その短い間が、今のリンには必要なものだとしても。
目覚める気配のないことにほっとして、白い背中を撫でる。そこに散らした赤は、街で見た千両の赤い実を思い起こさせた。それだけが唯一、この家で正月らしいものだった。
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誰が死んだんだろう。厨二くさい。