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ぼーかろいどのキャラデザに惹かれた管理人が萌えを語るためのブログ。最愛は白リボンの黄色い子。
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聖女

ギムナジウムっぽい鏡音。完成版。
某小説のパロのはずが大暴走というか…何だろうこれ。女神アストレイアの名前を借りただけになりました。
今回は珍しくヘタレンではない…はず。

図らずもAct2誕生日ですね。生誕記念ということにしておきましょうか。


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 礼拝堂の扉は、一つだけひっそりと開けられていた。初夏の陽気に緩んだ廊下へ、切り裂くようにして冷たい空気が流れてくる。扉の内側に滑り込むと、その冷気がたちまち身体に凍みた。石造りの校舎はもとより冷えるが、ここは並はずれて寒い。
 天井が高いのに、まるで解放感がないのは何故だろう。生徒達の華やかなざわめきが、ひどく遠い。息をするたびに、重い空気が肺を満たす。上げ下ろしの窓にはステンドグラスが嵌められていて、射し込む光は弱かった。整然と並んだ長椅子に隠れるようにして、レンはゆっくりと歩を進めた。深い飴色の木床を、そうっと踏みしめる。

 探し人は、そこにいた。祭壇の前に膝をつき、瞼を閉じて、静かに祈りを捧げている。彼女の祈りを邪魔しないように、距離を置いて立ち止まる。
 伏せた顔は穏やかだった。白くなめらかな頬に湛えた微笑は、彼女が祈りを捧げている石膏の聖像の表情に、よく似ている。慈愛に満ちたそれは、レンには決して向けられることのない、聖女の顔だ。
(……聖女ってガラじゃ、ないくせに)
 祈りを守ってやる義務などないことに気づいて、レンは無造作に足を踏み出した。狙い通り、古びた床は僅かに軋んだ。音に反応して白い瞼がぴくりと震え、持ちあがる。その碧い瞳がレンを捉えるなり、彼女――リンの顔から、たちまち微笑みが消えた。
「……何しにきたの」
「リンを探していた」
「出て行って」
「リンのお祈りが終わるまで、待ってるよ」
「出て行って!」
 声を荒げて立ち上がったリンは、小柄な身体でレンを隠すようにして、祭壇に背を向けた。レンと全く同じ色をした碧が、ぎらぎらとレンを睨めつける。
「アストレイア様の御前で、嘘をつくなんて許さない」
 震えた声は、怒っているようにも怯えているようにも聞こえた。リンは、レンがここに立つことはアストレイア女神への冒涜であると考えているらしい。たいした傾倒っぷりだ。
 アストレイア信仰それ自体は、決して悪いものではない。もしリンが本当に信仰心を持ったというのなら、わざわざこの学園に潜り込む必要はなかった。しかし、彼女の傾倒は信仰に対してではない。信仰に見せかけた別の何か。憧れと呼ぶにはあまりにも盲目的な――ある種の宗教のようなものだと、レンは思っている。
「ここにいちゃいけない?」
「嘘まみれのその格好を懺悔しに来たって言うなら、考えてもいいわ」
「まさか。リン、僕は」
「っ、黙って!」
 レンの言葉に過敏に反応して、リンは声を張り上げた。碧い瞳が、焦りと恐れを滲ませて揺れる。
 彼女が畏れるものなら知っている、しかし恐れているものとは何だろう。レンの思いあがりでなければ、あるいは。
「りん」
 試すつもりで低く名を呼ぶと、リンは慌てて距離をつめた。
「リン」
「だめ、」
「リン」
「黙りなさいってば!」
 なおも口を開くと、リンは手をのばしてレンのそれをふさいだ。もう片方の手で、レンの肩をぐいぐいと押しやる。
「は……っやく、出て行って……!」
 リンの声が高い天井に響く。その余韻が消える前に、キイと扉の開く音がした。

「何の騒ぎです」
 ひんやりとした声音に、リンがはっと手を引いた。長椅子の最前列の脇、祭壇にごく近い壁ぎわに、花の彫刻が施された小さな扉がある。その扉が開かれ、一人の上級生が立っていた。一目見て、レンは思わず眉をひそめた。聞かれただろうか。
(今度は本物の「聖女」様か)
 メグリネ・ルカ。今期生徒会の一員だ。自分達と同じ制服に身を包んではいるが、格が違う。クラスメイト達の顔さえ曖昧なレンでも、彼女の顔は見知っていた。同じ年頃の少女とは思えない落ち着きと、彫刻のように整った容姿から、生徒会の中でも一際目をひく人物である。下級生の間ではアストレイアの御使いだの清廉の白百合だのと囁かれ、さながら聖女扱いされている。先ほどのリンのお祈りも、彼女を真似たものに違いなかった。
 くるりとレンに背を向けて、リンは姿勢を正した。ルカの視線は、ふわりとレンを撫でてから、リンの直向きなまなざしを受け止めた。後ろ手にそっと扉を閉めて、聖女は困ったように微笑んでみせる。
「リン」
「っ、はい!」
 彼女に名を呼び捨ててもらえることが、一般の下級生にとって、どれほどのことか。お叱りを覚悟したこんな時でさえ、リンはうっすらと首筋を染めた。
 生徒会の人間の下級生に対する呼称は、どんなに親しくとも苗字にさん付けが基本だ。ファーストネームを呼ばれるのは特別な生徒だけであり、彼女達こそ次期生徒会候補であるというのが、この学園では暗黙の了解らしかった。レンが洗い出した限り、自分達の学年ではリンだけだ。それから、一学年上のグミという生徒。他に、あともう二人ほどいるようだ。
「この礼拝堂の入り口をなぜ閉めないか、貴女は知っているはずですね?」
「……はい。誰でも自由に入って、祈りを捧げられるように開けていると、ルカさまに教えていただきました」
 生徒会の人間がどの程度リンと接触していたのか、レンはまだ完全に把握できていなかった。自分がこの学園に来てからのことは取り零していないはずだが、さすがにそれ以前は分からない。けれど、ルカが出てきた扉――花の彫り飾りがついたあの扉より先に、リンが招かれていないことは確かだ。
「そうね。誰でも、と私は言ったはずです。ですからもちろん、そこの方…」
 再びちらりとレンを見やったルカの瞳は、しんと澄んであまりにも温度がなかった。
「貴女の“妹さん”にも、その資格はあるのですよ」
 不自然に見えない程度に、レンは自分のスカートを握り締めた。腿のあたりまで外気に晒される感覚には、数カ月たっても慣れない。女性はなぜ、こんな頼りない構造の服を好んで身につけるのだろう。リンやルカの着るものと全く同じ、ワンピースタイプの古風な制服は、レンの秘密を覆い隠すにはいささか心許なかった。
「でも……っ」
「あなた達の間に何があるのか私は知りません。けれど、アストレイア様の御前では誰もが平等であるはずです。違いますか?」
「……違いません、ルカさま」
 ふいと顔を逸らしたリンは、血が滲むのではないかと心配になるほどきつく唇を噛み締めた。細い肩が悔しげに震える。敬愛するルカに誤解されようとも、レンの『嘘』を彼女は決して告発しない。
 レンが性別を偽ってこの女学園に来たとき、リンはひどく拒絶反応を示した。けれども、その事実を人前で暴こうとはしなかったのだ。それどころか、寮で一年間を共にしたルームメイトに別れを告げて、リンはレンとの相部屋を選んだ。レンを傍で監視するためか、あるいは秘密が漏れるリスクを小さくするためか、真意は分からない。
 ルカを直視できないことを恥じ入るように、リンは白い首筋を俯けた。その向こうで、さらに青白く透き通った頬が、美しい笑窪を作る。ルカが初めてはっきりと、レンを見据えた。
「鏡音さん」
「……はい」
 この場合、自分のことだろう。高めの声は、今や意識せずとも出すことができた。そういえば、この声がルカに似ているとクラスメイトに羨まれたことがある。
「ちょうど良かったわ、あなたを探していました。ミクが呼んでいます」
 リンが弾かれたように顔をあげた。薄々と予感のあったレンでさえ、その名を聞いてぐっと腹に力を入れた。この学園でルカが聖女なら、ミクは神だ。滑稽なことに、生徒のみならず教師達までそう認知している。むしろ、学園の卒業生がほとんどを占める教師達にこそ、熱心な『信者』が多いように思う。染まらない者は異質だ。唯一話のわかる教師だったメイコは、他校出身だと話していた。
「レンに、何の用でしょうか」
 レンが返事をする前に、リンが絞り出すように呟いた。ルカの方へ向き直った顔をつぶさに見られないのが惜しい。彼女の顔を彩るのは、どんな感情だろう。愕きと失望、羨望と嫉妬、不安と焦燥、あるいはその全てだろうか。リンの様子に気づかないはずがないのに、ルカの返答はにべもなかった。
「私は知りません。鏡音さん、『白百合』まで来て下さる?ご案内するわ」
「……わかりました」
 ルカはゆったりと踵を返して、先ほど自分の出てきた扉に歩み寄った。生徒会が『白百合』と呼ぶその場所は、花の刻まれたその扉の先にあると言われている。ミクに面会を許された者だけが立ち入ることのできる場所。招かれた彼女らの行き着く先は二つだ。『洗礼』を受けて生徒会の一員となるか――メイコのように、二度とこの学園で姿を見ないか。
「待って、待って下さい!」
 ルカを追ってリンの横をすり抜けようとした瞬間、熱い手がレンの腕に縋りついた。震えながらもルカを見据えるリンの目に、かつての光が戻りかけている気がする。
「何か」
 ルカの声は柔らかいけれど素気なく、リンは怯んだようにつかのま言い淀んだ。レンの腕を握る手に力をこめて、リンは声を押しだした。
「あの……。私も、行ってはいけませんか?」
「……ミクに聞いてみなければ、わかりませんね」
 ルカの断る気配を感じて、レンはリンの縋る手をそっと剥がした。僅かな抵抗を見せる小さな手を、そのまま握り直す。
「“私”からも、お願いします」
 生徒会は既に、レンの正体を見破っているかもしれない。遠からずこうなることは想定していて、そこにリンを巻き込むつもりはなかったのだが、思い直した。学園に来た目的に立ち返るなら、リンを一人にすることは本意に反する。
 しっかりと繋がれた“姉妹”の手を見て、ルカは呆れたようなため息を漏らした。今度は、冷たさを隠そうともしなかった。
「わかりました。リン、あなたも『白百合』へ入ることは許しましょう。ただし、引見を許すかどうかは、ミクが決めることです」
 言い捨てて、花刻の扉の向こうへ消える。その背を追って扉を押すと、狭い石段が螺旋を描いて下へ通じていた。仄かな明りに照らされたルカの後姿は振り返らずに、その先の暗がりへ溶けていく。こつこつと、足音だけが反響して届いた。握られるままだったリンの手が動いて、指先を強く絡める。それを合図に、レンは下の段へ踏み出した。


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何かこう、はじめは宗教的なものを書きたかったのですが、気が付いたら中二的な設定を考える方がメインになってしまいました。

カイトさんはミクの関係者で、この学園に出入りを許される唯一の男性とか。
文中の「あともう二人」はたぶん、ミキさんとリリィさん。
せっかくなら、がくぽの位置も考えたかった。
何か設定を考え出すと色んなキャラの立ち位置を考えてしまうのが悪い癖ですね。もう楽しくて。

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