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Buptiga

ぼーかろいどのキャラデザに惹かれた管理人が萌えを語るためのブログ。最愛は白リボンの黄色い子。
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ストップモーション(後)

こちらの続き。レン君のターン。
せっかくバンパイアなら、ハロウィン更新にすれば良かったと後から思いつきました。
時すでに遅し。


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「リン、よく来たわねぇ、リン」
 病室を訪れるたびに、僕の曾祖母はそう言って相好を崩した。彼女が若い頃、事故で亡くした妹に、僕は瓜二つだったらしい。
「おばあちゃま、この子はレンよ」
 僕の母が何度そう訂正しても、曾祖母が「僕」を認識することはなかった。その頃、僕はすでに入院生活を送っていて、曾祖母と同じ病院に居た。入院生活は退屈で、僕はよく一人で彼女の病室を訪れた。たとえ彼女が僕を「リン」だと思っていたとしても、話し相手がいるのは楽しかった。彼女の「リン」を演じるうちに、どんな子だったのか、僕は興味を持つようになった。

「リン」は十四歳のとき、事故に遭ったまま行方不明になったらしい。事故の起きた場所に流れていた血の多さから、もう生きてはいないだろうと診断されたけれど、結局、遺体は見つからなかったそうだ。それでも諦められなかった僕の曾祖母は、何年も「リン」を探し続けたという。一〇〇歳を超え、すっかり耄碌して、静かに死を待つ彼女とって、見つけられなかった妹のことだけが心残りだったのだろう。「リン」を演じるために「リン」と向き合っているうちに、僕は「リン」を探ることに夢中になっていった。曾祖母との会話の中に新しい「リン」を見つけるたび、心の中のノートにしっかりと書き留めた。母が嫌がるから、実際にノートに書いたりはしなかったけれど。ただでさえ寿命が短いと言われている僕を、もう亡くなった人に重ねることを、母はひどく嫌った。親として、当然のことだったと思う。それでも僕は「リン」を想った。死んだら「リン」に会えるかもしれないと思うと、死ぬことも怖くなかった。

 曾祖母が天に召されたときに、僕は1枚の写真を手に入れた。「リン」が笑っている写真だ。曾祖母の病室の棚に大切そうに仕舞ってあったのを見つけて、遺品整理で誰かに見つかる前に、くすねておいたのだ。
 初めて見る「リン」は、本当に僕にそっくりだった。けれど同時に、決定的に女の子だった。分かっていたはずなのに、実際に目にしてみると、ひどく胸を突かれた。一片のかげりもない綺麗な笑顔は、うす暗い病室に差す太陽のように眩しい。すごく可愛い。そう思った。写真の裏には、古い日付が記されていた。僕にとって大昔といえる数十年前の日付は、妙に現実感がなく、写真の笑顔とはどうしても結びつかなかった。僕の中で「リン」は生きていたから。

 母も父も兄弟達も、自分の生活で忙しいのか、僕の病室に訪ねてくる回数は次第に減っていった。曾祖母がいなくなって退屈になってしまった僕は、よく病院の庭に出て、日向ぼっこをした。日の光の下でのんびり「リン」の写真を眺めるのが、僕のお気に入りだった。
大切に大切に扱っていたつもりだったのに、ある時、それが風に飛ばされてしまった。幸い、風は緩やかで、ふわりと浮きあがった写真は近くを通りかかった男女の足元に落ちた。身を屈めて写真を拾ってくれた綺麗な女の人は、その写真を見るなり、驚いたように目を見開いた。連れの男の人に見せて、二人は硬い表情で何か話し始めた。どうしたのだろう。不思議に思ったけれど、とにかく大事な写真を返してもらいたくて、僕は二人に声をかけた。
「それ、返してくれませんか。僕のなんだ」
 二人は顔をあげて、そして今度は僕を見て驚いたようだった。僕が、写真の「リン」に似ていたからだろう。
「君、この写真の子が誰だか、知っているかい?」
「うん。僕の曾祖母ちゃんの、妹」
「……その妹さんのお名前は、なんて言うのかしら?」
「『リン』だよ」
 僕の答えに、二人は顔を見合わせた。その人たちこそ、メイコさんとカイトさんだったんだ。



 今、僕の前で、「リン」は泣き出しそうな顔を俯けている。僕は確かにリンに会いたいと思ってここに来たけれど、こんな顔を見に来たわけじゃなかった。でも、少しは前進しているのかもしれない。僕がリンの頬へ手をのばした時、彼女は僕の手を振り払わなかった。それどころか、僕の手に彼女自身の手を重ねて、控えめに握ってくれている。初めて触れるリンの頬は、ひんやりとしてとても柔らかい。できればこの頬が、あの写真のように笑うところを見たい。
「……痛かった?」
 リンは俯いたまま、小さくそう呟いた。
「え?」
「あんたが……死んだ時の話よ」
「……痛かったよ、すごく」
 バンパイアになるというのがどんな仕組みなのか、僕は未だに分かっていない。分かったのは、メイコさんが僕の首元に噛みついた時、死にそうなほど痛かったってことくらいだ。まぁ、実際に人間としては死んでしまったのだから、妥当な痛さだったのかもしれないけど。
「ごめんなさい」
 泣き出しそうだったリンの顔が、今度は辛そうに歪んだ。しまった、また笑顔から遠ざかった。
「どうして謝るの。リンだって、自分の時は痛かったでしょ」
 なるほど、あの痛さはいただけなかった。何故かというと、「リン」の写真を駄目にしてしまったからだ。僕だってバンパイアになるのは少し怖くて、メイコさんに噛みつかれる時、お守りとして「リン」の写真を持っていたのだ。あんまり痛くて理性が飛んで、大切な写真をぐしゃぐしゃになるまで握りつぶしてしまった。
「そうじゃなくて……」
 リンは言葉を探しあぐねて、繊細な金色の睫毛を震わせた。
「……メイコさんがどう言ったかは知らないけど、あんたがバンパイアになったのは私のせいで……それなのに、あんたは声をかけてくれた。だから、私はあんたに、」
「レン」
「え?」
「レン、って呼んでよ」
 リンが俯けていた顔を急にあげたので、頬に置いていた僕の手は自然とはずれてしまった。僕の手を握るリンの手からも、力が抜けた。名残惜しいけれど、流れに任せて僕は手をひっこめる。
「……あんたもさっきまでは、キミ、って」
「今日からはリンって呼ぶことに決めたんだ。だからリンにも、名前で呼んでほしい」

 僕は今日、リンが「リン」だって、ようやく確信した。「姉妹」と言った時のリンの顔が、自分のお姉さんのことを――つまり、僕の曾祖母のことを考えているんだって、分かってしまったから。

 実を言うと、僕は、このリンが本当にあの「リン」なのか、少し疑っていたのだ。リンは「リン」に比べて全然笑わないし、僕にすごく冷たい態度をとる。もちろんリンだって、ミクさんやグミさんや、ある程度うち解けた人にはちゃんと笑顔を向ける。でもそれは、あの写真の太陽のような笑顔じゃなくて、病院の庭に植えられたマーガレットみたいに密やかな笑顔だった。もしかすると、何十年という年月が、リンの笑顔を変えてしまったのかもしれない。太陽みたいな笑顔を取り戻す。それは、僕の曾祖母でもなければできない芸当なのだろうか。
「それで、なに? 続けて」
「……だから、私はあな、た、に」
 リンは気まずそうに口ごもって、さっきより深く俯いてしまった。金茶の髪がさらりと流れる。僕の身長ではあまりお目にかかれないリンの可愛らしいつむじが、目の前にきた。その代わり、表情は全く見えない。
「感謝してる、の。ありがとう……レン」
 不覚にも、動揺したらしい。
 普段の僕なら、リンが踏み込まれたくない境界線はちゃんと見極めることができる。いや、今日だって見極めてはいた。だけど、仕方ないじゃないか。刺々しさも冷たさもないリンの声で、僕の名前を紡がれることが、こんなに素晴らしいことだとは思わなかったんだ。冷静さを欠いた僕は、足元の境界線を確認することを忘れて、一息に駒を進めてしまった。つまり、僕はリンを思いきり抱きよせていた。
「…………っ!」
 一拍おいて、リンが激しく身を捩る。はっとして力を緩めた途端に、僕はものすごい力で突き飛ばされた。
「うわっ」
 すっかり忘れていたんだけど、僕らが話し込んでいたのは大広間の両開きの扉の前だ。僕が扉の片方を開けたとき、リンが入ろうとしなかったから、僕は自分の片足を挟んで扉を押さえていた。リンを抱きしめたのは衝動的な行為だったので、片足を固定したままの僕は少々不安定な立ち方をしていた。一気にバランスを崩し、背中で扉を押し開けながらその場に転倒すると、上半身だけ大広間に乗りいれた僕の背中に、反動で戻ってきた扉が当たった。
「ちょっと、大丈夫?」
 二枚の扉に挟まれたまま、視界いっぱいに広がる片方の扉を茫然と見つめていたら、背中に当たる重みが消えた。ごろんと転がって仰向きになる。リンが扉を押さえて、僕の滑稽な姿を見下ろしている。
「……謝らないわよ」
 怒った顔でそう言うリンの声は、何かを堪えているようだった。口元が僅かに震えたのを、僕が見逃すはずもない。
「僕、二本足で立つことには慣れていないんだ」
「は?」
「ここの仲間になる前は、車椅子の生活を長く続けていたからね」
「……」
「だから、今回の失態は大目に見てもらえないかな?」
「何、それ、言い訳のつもり? ……ふふっ」
 耐えきれずに緩めた頬を隠すように、リンは顔をそむけた。それでも収まらなかったのか、扉から手を離してくるりと背を向ける。再び扉に挟まれないように、僕は急いで身を起こした。廊下を歩き出したリンへ、声をかける。
「ねえ、チェスでもしようよ」
「チェスは飽きたって言ったでしょ」
 返ってきた声は平常で、残念ながら笑みの気配はもう感じられなかった。その代わり、その声に棘はないような気がする。
「どこ行くの?」
「部屋。外套とってくる」
 結局、散歩に行くらしい。外は日が差しているけれど、さっき玄関ポーチへ出たときは少し風が強かった。人間なら、外套を着る気候だろう。リンは「人間」らしく振る舞うことを好むし、そうでなくとも、外へ出る時は「人間」らしくするようにと、メイコさんが一族に厳命している。 
 座り込んだまま遠くなる背中を見送っていると、長い廊下の先の暗がりで、ふいにリンが振り返った。
「レンも。その恰好で外に出たら、メイコさんに怒られるわよ」
 微かな笑みを残して、自室の扉へ消える。……驚いた。彼女自身も微笑んだことに気づいていないような淡い笑顔だったけれど、確かにリンは、僕に向けて笑った。



 リンの気が変わらないうちにと、僕も急いで自分の部屋へ戻る。外套をつかんで部屋を出るとき、チェストの上の写真立てが目に入った。丁寧に皺をのばしたそれを、リンに見せたことはない。僕に曾祖母との面識があることも、曾祖母がどんなに妹を気にかけていたかも、まだ話していなかった。
 どれだけ時間がかかるかは分からない。それでも、いつか僕が、僕自身の力で、太陽みたいなリンの笑顔を取り戻せたら。そうしたらリンの望むだけ、彼女の姉の話をしてあげようと決めている。幸い、時間だけはいくらでもあるのだ。リンはよく自分達のことを化け物だと言うけれど、そう考えれば永遠に時を止めたこの身体も、悪くはないと思えるのだった。

 
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ヘタレン成分が足りなくてつい。
 
姉の曾孫←→曾祖母の妹という関係が書けたので満足です。
次は従兄弟な元カレ元カノに戻ろう。

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