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Buptiga

ぼーかろいどのキャラデザに惹かれた管理人が萌えを語るためのブログ。最愛は白リボンの黄色い子。
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ソルティチョコレート(1)

ビターマドレーヌのつづきです。

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「レンさんとは、あまり話せませんでしたわね」
 自分より年上の女性からさん付けで呼ばれるのは、どうにもむず痒かった。距離が近い。何か香水でもつけているのだろうか、甘ったるい香りが鼻をくすぐる。外国のお菓子を連想したのは、彼女――ルカさんが帰国子女だと聞いたからだろう。
「傘、俺ですみません」
「あら、違うんです。せっかくの機会ですし、最後に話せて嬉しいの」
 ルカさんが言うと、合コンという「機会」もなんだか高尚なものに思えてくるから不思議だ。
 いつもより高く傘を持ち上げる。握る手に、妙に力が入っている。相合傘。そんなもの、リンとしかやったことがなかったので、色々な意味で新鮮だった。自分より背の高い人間に傘を差してやるのも、当然初めてだ。
 昔に比べたら大分背が伸びたと思っていたが、それはリンと比べるからだと、改めて気づかされた。平均より低い方だという自覚がないわけではなかったが、軽くショックだ。あの初音ミクさんが自分より高かったのは、ヒールのせいだと思いたい。読モというからには、モデル体型なのだろうから、一般女性に比べて背も高い、はずだ。ルカさんの背が高いのは、自分より年上だからだと思うことにする。



 結果的に言って、合コンはまずまずの成功だった。初体験というメンバーが多い中で、あれだけ盛り上がったら、合格点だろう。もちろん、いくつかのトラブルはあった。例えば――神威兄妹がご対面してしまったこととか。

 B駅に集合した時、女性メンバーは一人足りなかった。光り輝くようにつややかなツインテールの女の子と、ふわりとしたロングヘアの色白の女性、制服以上に短いスカートを履いているリン。ミクオが逸早くツインテールの子に話しかけたから、彼女がミクさんだというのはすぐに分かった。足りない一人は遅れてくるとリンに連絡があったらしい。店の場所は知っているというから、俺たちは一足先にカラオケ店に向かった。
 予約していたその店は、神威先輩が合コンならと紹介してくれた所だ。先輩の行きつけだそうだが、俺が行くようなカラオケ店とは格が違った。ホテルのように綺麗な店内に、受付の人の丁寧な物腰。あれはきっとバイトの学生ではない。一口に言えば、高そうな店だった。さすが大学生の行きつけと言うべきなのか、神威先輩だからなのか。俺やリンだけで来ていたら確実に浮いていただろう。けど、カイトさんもミクオも堂々としていたし、ミクさんやルカさんは至って自然体だった。『ごめんレン、お金余分に持ってる?』リンが小声で袖を引いたので、心配するなと返した。もとから今日は、男性陣が払うつもりでいた。……リンと同じセリフを、俺もミクオに言おうと思っていたのは秘密だ。
 席に落ち着いて(無論ミクオはミクさんの隣を陣取った)、ドリンクを注文し、さて自己紹介をしようかという段になって、リンがケータイを手に立ちあがった。もう一人が店の入り口に着いたらしい。連れてくると言って部屋を出たリンを待つことしばし、ガチャリとドアが開いて、リンの後ろから明るい声があがった。『遅れてごめんなさーい!』リンに続いてドアをくぐったその人は、つぎの瞬間、びしりと固まった。同時に俺の後ろで、慌てて立ったらしい音がした。『グミ?!』その時の神威先輩の表情を見られなかったことが、少し惜しい。見なくてよかったとも思うけど。
 その後の事態の収拾について、俺はミクオとリンに感謝すべきだろう。グミお前どうしてここに合コンとは何事だそれにしても遅れてくるとは何だ皆さんに謝りなさい、合コンはお兄ちゃんもでしょこんな若い子に混じって何してるわけ遅れたのは悪かったけど自転車で事故ったんだから仕方ないじゃん、事故?!怪我はないのか歩いて大丈夫なのかどこを打ったんだ、へーきだってたいしたことないもんでも自転車壊れちゃったんだよねお兄ちゃん新しいの買って、もうその手には乗らんぞ何台目だと思ってるんだだいたいお前は――そんな調子で兄妹喧嘩をおっぱじめた二人の間に、ミクオが割り込んだ。『へえっ神威先輩の妹さんなんですか!やー事故大変でしたねぇ、喉渇いたでしょ?とりあえず飲み物どうしますか。おいレン、メニューとって』神威さん(妹)をドア近くの自分の向かいに座らせながら、ミクさんの隣を離れないところはさすがだった。その隙に、リンが神威先輩(兄)の腕を引っ張った。『グミさんのお兄さんってことは神威さん、でいいんですよねっ?グミさんにはいっつもお世話になっててぇ、お家ではどんな妹さんなんですかぁ?お話聞かせてくださいー』そう言って、グミさんとは離れた奥の席へ誘導した。普段より可愛い子ぶった甲高い声は、この際仕方なかったんだろう。予想外の展開に総立ちになっていた他のメンバーも、それでようやく席に着くことができた。グミさんのドリンクを注文した俺は、余った席に座った。ミクオの斜め前、つまりグミさんの隣で、ミクさんの向かいだ。近くで見ても芸能人ばりのミクさんの小顔は、じつに眼福だった。
 おなかすいた、というミクさんの鶴の一声で、食事タイムになった。カラオケで、歌わない時間を過ごしたのは初めてだ。自己紹介をして、飲んで食べて、意外なほど話は弾んだ。8人というのは、全員で話をするには多すぎる人数だ。自然と2つに分かれたが、こっちのグループを盛り上げたのは、案の定ミクオだった。グミさんはノリが良いし(本名はメグミさんというらしい。兄に比べてまともだ)、ミクさんは遠慮なくつっこんでくるし(アイドル顔とは裏腹にサバサバした性格の御仁だった)、なんというか、まぁ……大変楽しませていただきました。リンの方は、ルカさんも含めて年上ばっかりでちょっと心配してたんだけど、杞憂だった。むしろ、リンが仕切っているように見えた。神威先輩もカイトさんも、ああ見えて持ちネタが豊富だから、やりやすかったんだろう。

 カラオケが始まると、曲の合間に隣と一言二言交わすのが精一杯だった。つまり、俺は席の遠かったルカさんとはほとんど話していない。お開きになってカラオケ店を出たとき、暗い空からは雨が落ちていた。ルカさんの傘にお邪魔することになってしまったが、B駅まで会話がもつかどうか、自信がなかった。



 それにしても、傘を持っていたのが4人だけというのは、少々出来すぎだった。天気予報では夜から雨と言っていたのに、用意が悪すぎる。ちなみに俺は、ビニール傘を持参していたのだが、ミクオに奪われた。すぐ前を行く俺のビニール傘の下には、ミクオとミクさんが収まっている。あいつの鞄の中に折り畳み傘があったとしても、俺は驚かない。ミクオなら、咄嗟に傘の本数を数えて調整するくらい、やってのけそうだ。
 ガチャン、と後ろで派手な音がした。思わず振り返ると、神威先輩が大きな荷物を片手で持ち直している。壊れた自転車だ。
「……大丈夫っすか?」
「ああ、すまない、大丈夫だ」
「お兄ちゃん、傘持つって」
「グミじゃ背が足りんだろう」
 右手に自転車、左手に傘では、さすがの神威先輩でも歩きにくそうだ。グミさんの自転車は、よくぞ無事でと思うほど原形を留めていなかった。どんな事故だったのか聞けば良かった。もう当分自転車はやめなさい、やだよ私好きなんだもん自転車。言い合いなのかじゃれ合いなのか分からないやりとりを聞いて、くすりとルカさんが笑った。
「グミは、素敵なお兄様がいらしたのね」
「…ちょっと過保護じゃないですか?」
「あら、それがいいのに」
 傘を持つ手がいつの間にか下がっていたことに気づいて、慌てて高く持ち直す。淡い薄紅をレースで縁取った、華奢な傘だ。折り畳みなんだろうけど、持ち手の部分はきちんと曲線を描いていて、持ちやすい。誰かさんの傘みたいに、持ち手がカエルの顔になっているのとは違って、綺麗だし実用的だ。
 前を歩くビニール傘の向こうには、鮮やかなレモンイエローが見える。今はその下から、青いマフラーが揺れていた。あのカエル、持ちにくいけど、ころころ動く目は愛嬌があるんだよな。クローゼットに押しこんだ俺のオレンジのカエルは、どうしているだろうか。
「リンとレンさんは従兄弟どうしですのね」
「へ?あ、いえ…はい、まぁ」
「違いました?」
「いえいえいえ、あってます」
 カエルの心配をしている場合ではなかった。油断していると、また傘を持つ手が下がってきそうだ。しかしルカさんは、俺に気を引き締める余裕を与えてくれなかった。
「別れても、仲がよろしいんですね」
「っ……知ってたんですね」
 この後ろめたさは、なんだろう。自己紹介のときは俺もリンも、付き合っていたことについて特に触れなかった。別に隠してたわけじゃないし、リンから聞いている可能性もあるって分かっていたけど。
「リンの話にはよく、あなたがでてきますもの」
「……へぇ」
 ここは、何て言うべきなんだろう。俺のことどう言ってました、とか?「元カレ」がそれを聞くのは、なんだかカッコ悪い気がする。
 ルカさんが知っていたってことは、リン曰く大親友のミクさんや、ルカさんより年の近いグミさんも、知っていたのかもしれない。俺はミクオ以外には言わないでおいたのに、なんだか面白くない。そう思ってしまうことが、我ながら情けなかった。
 普通、知り合いの元カレや元カノと付き合いたいなんて、思わないだろう。そう考えると、今日の会は、俺やリンには不利だった。カイトさんや神威先輩に言わなかったのは、リンに義理立てしたつもりだったんだけど…やっぱり、言えば良かった。
「聞かないんですか」
「何を?」
「どうして別れたのか、とか…」
「あら、そんな野暮なことしません。合コンでなければ、聞いたかもしれませんけど?」
 やけくそで聞いてみたら、ルカさんは悪戯っぽく唇を尖らせた。それは、俺も対象内に入れてくれていると思って良いのだろうか?俺が気にしすぎなだけで、別れてしまえば、付き合っていた事実なんてリセットされるものなのか。
「…ははっ、ですよね。無粋でした」
 これ以上ぐずぐず考えるのはいいかげん女々しい気がして、俺は軽く笑みを浮かべた。ミクオの真似を、してみたつもりだった。


 B駅につく直前、ロータリーのところで、神威兄妹は立ち止まった。自転車があるから、タクシーで帰るという。あんなの、タクシーの荷台に乗せてもらえるのだろうか。何にせよリッチだ。そういえば、会計は神威先輩がカードで済ませてくれたので、俺はまだ一円も払っていない。このまま奢ってくれないかと僅かに期待していたりする。
 駅へ入ると、時計の針はあと少しで九時を指すところだった。この街の高校生にとっては、割と遅めの時刻だ。
「ミクちゃん、どっち方面?え?ああ、俺と一緒じゃない、送ってくよ」
 嘘をつけ。お前反対方向だろ。とは言わず、黙って傘をたたむ。ルカさんに返すと、ありがとう、と律儀にお礼を言われた。
「ルカさんはどっちですか?」
「私は、ミクと反対です」
 それならたぶん、カイトさんと一緒だ。リンの傘のしずくを払っていたカイトさんに声をかける。送りましょうと請けあう横から、リンが口を挟んだ。
「カイトさん、それ、たたまなくていいです。私、歩きなんで」
「ああ、そうか…。それじゃこれ、ありがとう」
 ちらりと俺に目を走らせてから、カイトさんはリンに傘を返した。そうだった。カイトさんなら、リンの家の場所を知っている可能性はあった。その理由を俺は知っている。


 改札を抜けた4人が人混みに消えると、リンはさっさと踵を返した。出口に向かうリンの足取りは、俺がついてくることを疑わないようだった。いつも通学に使っている駅とは違うが、ここからだと歩きの方がはやいのは、俺も同じだ。数歩遅れて、リンについていく。出口近くの売店に、ビニール傘が並べられていた。一瞬、足が止まる。俺のビニール傘は、結局ミクオが持っていってしまった。
「レーン、入るでしょ?」
 外へ出たリンが、レモンイエローの傘を広げて、ことりと首を傾げた。



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チョコ忘れてないです。つづきます。

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