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Buptiga

ぼーかろいどのキャラデザに惹かれた管理人が萌えを語るためのブログ。最愛は白リボンの黄色い子。
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切り魔(後)

ルカミク学パロ後編。の、はずなんですが、ルカミクの影が薄い。
リンが出張りすぎた…これだから鏡音廃は。
めーちゃんが保健室の先生なのは私の趣味です。白衣希望。


------------------------



「ミクちゃんっ」
 ミクがカーテンを開けるのと同時に、保健室のドアががらりとスライドした。碧の瞳が、大きく見開いてこちらをとらえる。
「大丈夫っ?!ちか…ふぎゃっ」
「鏡音、声が大きい」
 ミク目掛けて走り込んできた金髪頭へ、メイコの持つバインダーが振り下ろされた。痛そうである。
「めーちゃんせんせぇ…ひどい」
 涙目になっているリンがおかしくて、気がつけばミクの口からは笑いが漏れていた。リンの後ろから入ってきたルカが、静かにドアを閉める。
「ううっ、誰か寝てる人でもいるんですかぁ?」
「今はいないわ」
「じゃ、いいじゃん!」
「そういう問題じゃないでしょう」
 小柄な友人が養護教諭に噛みつく様を眺めながら、軽く息を吸って吐いてみる。一度笑ったら、気持ちがほぐれたようだ。そっとこちらへ近寄ってきたルカに、微笑みかけることもできた。
「ごめんなさい、勝手にあの子を呼んできてしまったわ」
 保健室で制服の予備を出してもらい、スカートをはきかえている間に、ルカはリンを呼びにいってくれたらしい。小声の謝罪に、ミクは首を横にふった。
「大丈夫です。むしろ、リンの顔見たらなんかほっとしちゃいました」
「……そう」


 破かれたスカートをメイコに預けると、切り口を見たメイコは難しい顔をした。
「きちんと繕いなおすか、新しいスカートを買うかしないと駄目ね。初音、どうする?」
「…ええと」
「少し時間くれるなら、私が直したげるわよ?それまでは今履いてるスカート貸してあげるから」
 スカートがどうしてこうなったか、正直なところ、家族にはあまり言いたくなかった。それをわかってくれたのか、メイコは願ってもない提案をしてくれる。確かに自分の小遣いでは、新しいスカートは買えそうにない。けれど、そんなに甘えてしまって良いのだろうか。
「……あの、でも、」
「えー、めーちゃん先生、裁縫なんてできるんですかぁ?」
「ふぅん、また叩かれたい?」
 横槍を入れたリンに、メイコがバインダーを掲げる。リンは小動物のようなはしっこさでミクの後ろへ退避した。
「だって、何か先生のイメージにないもん!証拠見せてくれなきゃ信じらんないです!!」
「やってやろうじゃないの。初音、これできたらちゃんと鏡音に見せてやりなさい」
「は…はい」
 メイコの中では繕うことが決定してしまったらしい。ミクのスカートは彼女の手によって綺麗に畳まれ、通勤用であろう駱駝色のバッグにきっちり納まった。
 それを満足そうに見届けると、リンはポケットから何やら取り出した。
「それではこれから、ミクちゃんに授業を行いますっ。題して、鏡音先生の痴漢の撃退講座!」
 口上を述べながら、それをミクへ勢いよく差し出す。反射でリンの手から受け取ったものは、見慣れた文房具――ホチキスだった。訳が分からず顔をあげると、メイコとルカが揃ってひきつった顔をしている。
「今日は、ホチキスを使った撃退法をご紹介しまーす!ご使用法は簡単!ホチキスを手に隠し持って、ポケットでスタンバイするだけ!後は奴の手が伸びてきたところへブチ…」
「センセイ」
 何故か授業からテレフォンショッピングへシフトチェンジしたマシンガントークを遮って、ルカがすっと手をあげた。彼女にしては、ノリが良い。リンも驚いたのだろう、目を少し見開くと、にっこり笑ってルカを差した。
「はい、メグリネさん、何でしょう?」
「センセイは、それを使ったことがあるのかしら」
「私はありません!」
「……」
 沈黙が落ちる。そこへ、タイミング良くチャイムが鳴り響いた。
「……さ、貴女達はやく教室へ戻りなさい」
「えええ先生無視ですかぁ!」
「鏡音、あんたね。そんなの使えると思う?」
「でも、はぐれたとき用に使えってレンが」
 メイコは大きくため息をついて、こめかみを揉んだ。ちらりと時計を見て、またため息。それから机の引き出しを開け、何枚かの紙を取り出して、ペンをとった。あれは多分、保健室利用証明の用紙だ。
「いいわ、5分だけ遅刻を許しましょう」
「え?」
「私が痴漢対策法を教えてあげるわ」
「やったーっ!遅刻きょ、ったぁぃ…」
 再びバインダーが唸り、白リボンへ振り下ろされた。


「まずね、誰かさんの案だか何だか知らないけど、ホチキスはやめなさい。さすがにえげつないわ」
「やられたら10倍返しは基本ですよ!鏡音家の家訓だもん」
「知らんわ。だいたい、今回の初音のケースでは使えないわよ。気づかないうちにやられちゃうんだから」
「そっかぁ」
 リンがしょんぼりと肩を落とす。まさかとは思ったが、ホチキス案は本気だったらしい。
 疲れたように額を抑えて、メイコは椅子へ腰かけた。3人を机の傍へ手招くと、余り紙の裏を返して簡単な図を描く。
「満員電車ではね、立ってはいけない場所があるの。それが、ここ」
 ペン先が指したのは、ドアの脇だった。朝、ミクが正に立っていた場所だ。
「特に、開かないドアの側は危険。逃げ場がないからね」
 俯いたミクの肩に、ルカの手が気遣わしげに置かれた。思い出しかけた嫌な気分を払うようにして、では、と涼やかな声がメイコに先を促す。
「では、どこへ立てば良いのでしょう」
「理想はここね」
 今度は、座席中央のすぐ前が指された。縋る物が吊革しかなく、今までミクが敬遠していた場所だ。人の目があるので、ドア付近よりは痴漢の発生率が低いそうだ。
「でも、ほんとに混んでると、ここまでいけないこともあるのよね」
「リンの乗ってる線だとちょっと厳しいかなぁ。ミクちゃんがちか…被害、に遭ったのも同じ線だよね?」
「うん」
 ミクよりも小柄なリンは、あの満員電車ではさぞかし苦労していることだろう。いくらくだんの彼がついているとはいっても、彼だって確かミクとそう変わらない身長だったはずだ。
「他には…そうね、バッグでガードするという手もあるわ」
「ああ。スカートを、鞄で抑えるのですね」
「そ」
 鞄を肩にかけるのではなく、手で持って、お尻辺りをガードするのだそうだ。ルカは、自分も普段はそうしているのだと言った。サブバッグを持って前もガードするとより安心だと教えてくれる。
「リンもよく、体操着袋とかでガードして…あっ!!」
 大声にメイコが眉を顰める。リンが慌てた様子で回れ右をした。
「うちのクラス1時間目体育だった!鍵閉められちゃう…!」
 言い残して、保健室から走り出ていく。チャイムが鳴ってしまっているから、教室の鍵は日直の手によってとっくに閉められているだろう。と、思う間もなく、リンが再び駆けもどってきた。
「先生、遅刻許可証ちょうだい!」
「そんな名前の紙はありません。保健室利用証明書ね?」
「なんでもいいから!」
 奪うようにして紙を受け取ると、今度こそ飛び出していく。彼女の大好きな体育の時間を遅刻させてしまったのだと思うと、少し申し訳ない。
「…騒がしい子ね、まったくもう」
「リンらしい、です」
 メイコが苦笑してよこす。返しそびれたホチキスを手の中で転がしながら、ミクはそれに笑顔で応えた。お詫びとお礼に、あとでみかんゼリーでも差し入れておこう。

 あの子が聞くと調子に乗るから言わなかったんだけどと前置きして、メイコはミクとルカの顔を見渡した。
「痴漢に気づいていて、相手の位置もわかっていたら、足を踏みつけるのも効くわよ。ヒールを履いてる時は、踵で踏みつけてやりなさい」
「…痛そう、ですわね」
 悪戯っぽい流し目に、ルカが呆れと笑いの混じった声を上げる。メイコが痴漢の足を踏みつける様子を想像して、ミクも笑ってしまった。
「メイコ先生、それ、その踵で踏むの、なんか似合います」
「あら、光栄だわ。でも、巡音も似合いそうじゃない?」
「ええっ?そんなこと…ミクだって、似合うと思うわ」
「えー、絶対ルカさんの方が似合いますって」
 共犯者の気分で、3人はひとしきり笑いを零した。ミクはまだあまりヒールの高い靴を履いたことがなかったが、次に痴漢に遭った時はそれでリベンジしたいと思ってしまった。


 保健室を後にして教室へ戻る頃には、ミクの心は大分軽くなっていた。授業中の静かな廊下をルカと並んで歩くという、滅多にないシチュエーションにわくわくできるほどだから、我ながら現金なものだ。
 まだ今朝のお礼を言っていないことに気がついて、ミクは声を改めた。
「ルカさんあのっ、今朝は、ありがとうございました。それと、カーディガン、すみません」
「いいのよ、それくらい。…私こそ、うまく元気づけてあげられなくて、ごめんなさいね」
「え?いえいえそんなっ」
 とんでもない。涙の止まらないミクの傍にずっとついてくれていたのはルカだったし、保健室へ行くよう指示したのも、ミクと仲の良いリンを呼んできてくれたのもルカだ。どれだけ助けられたかわからない。
「……痴漢に遭わないためには、誰かと一緒にいるのも一つだと思うの。ミクは、誰か一緒に登校できるような人はいないの?」
「うーん、リンはいつもレン君とくるみたいですし、レン君の登校時間に合わせてるらしくて、朝早いんですよねぇ」
 ミクはそれほど朝が強いわけではない。長い髪を整えるのにもかなり時間がかかるので、これ以上の早起きは遠慮したかった。
「それなら……私と、一緒に行かない?」
「えっ」
「ああ、もちろん、他にお友達がいるなら…」
「いっ行きます!じゃなくて、ええと、できればお願いしたいです…!」
 そう、と微笑んで、ルカは立ち止まった。いつの間にか、ミクの教室の近くまで来ている。ルカのクラスはこの上の階だから、ルカには遠回りだと今更気付いた。教室前まで送ってくれたらしい。
「それじゃ、乗る車両を合わせて…でもそれだと…ええと、そうね、後で決めましょう。今日の放課後は何か予定がある?」
「いいえっ、特に何も」
「一緒に帰るということでもいい?」
「はいっ」
 災い転じて福となすとは、このことかもしれない。思わずほころんだ顔に、ルカの手がそっと触れてきた。
「あなたは笑っているのが一番ね」
 優しい声と頬に触れる熱に、今朝のルカの香りを連想してしまう。ミクの顔が赤くなるより先に、ルカは手を離して背を向けた。
 また放課後に。残した言葉が甘く耳に残って、ミクはルカの後姿が階段の角を曲がるまで、その場に立ち尽くしていた。まだ1時限目だというのに、放課後が待ち遠しくなってしまった。



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ミク達が通ってるのは、おそらく乙女の楽園(=女子校)です。
わりと厳しめの学校なだけに、保健室のメイコ先生の適度なユルさが大人気とかだといい。

蛇足。
満員電車の中で、レンは必死にリンをガードするんですねわかります。
むしろ抱きしめて全身ガードすればいいと思う。
レン君は一度ホチキスを使ったことがあるという無駄な裏設定。

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