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「……なんで、男の子の日はないんだろうな」
買い物袋がずしりと手に食い込む。はやく家に着きたかったが、帰ったら洗濯物を寄せなければならない。そういえば風呂掃除もまだだった。
「端午の節句があるよ」
「あれはこどもの日であって男の子の日ではない」
確かに、と苦笑する兄しか、今日は味方がいない。
毎年三月三日は、我が家では女の子デーであり、女性陣は家事が総免除される。免除されたしわ寄せがどこにくるかというと、言うまでもなく男性陣である。せめて雨が降れば洗濯は少なくてすんだのに、と青い空を睨んだ。
「毎年同じ事言ってるよね、レンは」
「だって納得いかないだろ」
普段6人で分担しているものを苦労して2人でこなすのに、その逆の日が用意されていないのは理不尽ではないか。ちなみに端午の節句は、前述の理由で通常分担である。
「そもそも、リンとミク姉はともかくさ……その」
「あとの二人は女の子って年じゃないって?」
「…おう」
口に出すなんて恐ろしい。レンは少しばかり畏怖と尊敬の混じった目でカイトを見上げた。この兄は意外と恐いもの知らずだ。
「まあ、雛祭りだし、女の子でなくても嫁入り前なら問題ないんじゃない?」
それでは我が家は永久にこのイベントから解放されないことになる。それは嫌だ。
「カイ兄は協力してくれるよな?」
「何を」
「来年からはこんな制度廃止にする」
以前リンに、このイベントの不平等さを説いて協力を要請したことがあったが、当然ながら聞き流された。
「……レンはほんと嫌いだよね、雛祭り」
「当たり前だろ」
「昔は泣いたし」
「え、うそ」
カイトが懐かしそうに目を細める。
「なんでリンと一緒じゃないのかって泣いて怒鳴って、その年は流石に中止になったなあ」
「……」
「来年からはそうすれば?」
それはおそらく、女の子だけ特別扱いが嫌だったのではなく、リンと別行動になるのが恐かったのだ。幼かったとはいえ、我ながら情けない。
「てか、カイ兄は嫌じゃないの?」
「んー別に」
「なんで」
「女の子に我が儘言われるのって、悪い気分じゃないんだよね」
「はあ?」
わけがわからない。この男にマゾっ気はないはずだが、認識不足だったろうか。
「むしろちょっと我が儘な方が可愛い」
「わかんねぇ…」
「レンにはまだはやいかもね」
がっくんなら理解してくれると思うけどなあと、兄がにやつく。実に鬱陶しい。
玄関のドアを開いて、どさりとレジ袋を置く。リビングからひょこっと白いリボンが覗いた。
「おっそーい!リンおなかすいた」
第一声がそれか。せめて労いの言葉なりかけてくれ。
しかし、カイトはぽんぽんとリンの頭を叩くと、二階に向かって声を張り上げた。
めーちゃーん、ミクー、ルカー、お茶にするよー。
リンがきゃらきゃらと笑う。どうやら雛祭り廃止は無理そうだ。
カイト達の気持ちなんて、一生理解できなくて良いと思った。
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平日の真っ昼間に全員揃ってるなんて暇な家族ですね。
たぶんあれです、カイルカは大学生、メイコは公休日、
ミクリンレンは……中高どっちも卒業式のため午前終了とか。
シロセの幼稚園は、3月3日は女の子デーでした。雛祭りのお祝いをするんですけど、準備を手伝うのは男の子だけ。でも、男の子デーはなくて(端午は休日だから?)、子供心に不平等だなあと思ってました。
あ、でもこどもの日メニューはあったんだよね。こどもの日もわざわざ他の日にお祝いしてた気がする。男女関係なく。…やっぱ不平等だな(笑)
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