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Buptiga

ぼーかろいどのキャラデザに惹かれた管理人が萌えを語るためのブログ。最愛は白リボンの黄色い子。
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非機能要求、アール

非機能要求でクリスマス。
一応つづきものなので、未読の方はもくじ(text)からどうぞ。
今回はわりとマスターが喋ってますので、マスター苦手な方は逃げてください。

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 ウィーン、ピピッ。玄関のロックを解除する微かな音は、自分達の部屋にいても耳に届いた。レンに一瞬遅れて、リンがはっと顔をあげる。レンに比べていくらか感度が劣るとはいえ、彼女の耳も人間を遥かに勝る性能を持っている。リンはみるみる笑顔になって、跳ねるように立ちあがった。
「おかえりなさい!!!」
 ドアを勢いよくスライドさせて、短い廊下へ踏み出すその速さに、ひやりとする。急いで後を追うと、リビングへ入る背中がよろめいた。
「……っリ!」
 レンが腰を抱えるのと同時に、リンも壁に手をついて踏みとどまった。
「あ。えへ、ありが…」
「走るな!」
 最大音量の声が出た。振り向いてはにかんだリンの顔が、ぴきりと固まる。しまったと思っても、もう遅い。険しくなっていた表情を緩めたが、白いリボンはゆるゆると萎れていった。
「ごめんなさい…」
「あーー、大丈夫か?」
 人に聞こえない程の小さな謝罪を、呑気な人間の声がかき消す。玄関に立った男が、苦笑してこちらを見ていた。
「……おかえりなさい、マスター」
「ただいま」
 リンの腰に回していた腕を解く。一人で立ったリンは、迷うように視線を彷徨わせてから、マスターに向きなおった。
「…マスターおかえり…」
「はいはい、ただいま」
 靴を脱いで部屋に上がったマスターは、いつものようにリンの頭に手を乗せる。
「転ばなくて良かったなぁ、リン」
「あの…でも…」
「レンは別に怒ってないぞ?な、レン」
 急に振られて一瞬詰まったが、慌てて頷いた。リンが不安げな顔でこちらを窺う。
「ほら、大丈夫だ。それより、お土産だよ」
 マスターが右手に提げていたものを掲げると、リンの興味はすぐにそちらへ逸れた。箱の形に膨らんだ袋。あれはたぶん…
「ケーキ?!」
「クリスマス・イヴだからな」
 起動して初めての、イベントだった。

 マスターが箱を開けるように指示すると、リンは袋を大事そうに受け取ってしずしずとテーブルへ進んだ。皿出すぞ、と肩を叩かれたので、レンはマスターを追ってキッチンスペースへ向かう。
「こら、レン」
「はい」
「あんまり大げさにしなくていいんだぞ。Expressだって、結構頑丈だからな」
「…はい」
 昨日の今日で、レンも神経質になっていた。先程のように何もない所ですってんころりんとやられては、こちらの身が持たない。マスターの反応を見ていると、そんなに気を遣うほどではないのだろうか。転ぶくらいは平気だと、構えるべきなのかもしれない。

 価格設定の都合上、ProとExpressにはいくつか構造の違いがある。記憶装置の一つもそうだと知ったのは、昨日のことだった。ExpressであるリンのHDDは、衝撃に弱い、らしい。




 昨日、休日出勤を嘆いて出て行ったマスターは、夕方頃に帰ってきた。手に提げていたのはクリスマス仕様の紙袋で、有名なチェーン雑貨店のものだった。中には、小さなツリーやぴかぴかのモール、サンタの蛍光シールなどが入っていた。文房具を買いに寄ったら、クリスマスグッズが半額だったのだそうだ。テレビで見ていた『クリスマス』が目の前に現れて、リンも、そしてレンも、胸が躍った。さっそく三人で、リビングまわりを飾りにかかった。
 窓ガラスに貼るタイプの蛍光シールは、リンがやりたがった。ソリに乗ったサンタを模したそのシールは、確かにリンが喜びそうな可愛らしいものだった。サンタのソリは、空高く飛んでいなければならない。窓際にイスをよせてよじ登ると、リンは目いっぱい手を伸ばした。そして、ものの見事にイスから転がり落ちたのだ。
 テーブルに頭をぶつけたのを見て、レンは最初苦笑した。可哀想に、痛かっただろう。しかし、レンが大丈夫かと手を差し伸べるより先に、マスターが動いた。リンを抱えあげたその横顔が妙に真剣なのに気づいて、レンは息を呑んだ。
 いたかったぁと涙目になったリンは普段通りで、特に異常は見られなかった。それでもマスターは、リンを自分の部屋に連れて行き、完全スキャンとメンテを開始したのだ。スタンバイ状態になっているリンの横で、マスターは簡単に説明してくれた。
 V2CVシリーズのProは、ボーカロイドとしてもアンドロイドとしても、非常に完成度が高い。音楽自体に興味はなくても、“アンドロイド”として買っていく客も多いそうだ。しかしその代わりに、富裕層でないととても手が出ない値段になってしまった。そこで開発されたのが、基本的なボーカロイドとしての機能に絞ったExpressだ。ファンを意識して姿形はなるべくそのままに、内部のパーツをより安価なもので代用。アンドロイドとしての機能は、必要最低限に抑えた。低価格で、きちんと歌えて、見た目もほとんど変わらないExpressは、爆発的に売れた。世に出ている製品の数としては、Expressの方が圧倒的に多いらしい。
 安価なもので代用したというパーツの一つが、補助記憶装置――人間の脳で言えば、思い出を記憶する部分――だ。Proに使用されているのは、V2CVシリーズだけのために特別に開発されたという最新型のSSDで、低発熱・低騒音、耐衝撃性が高く、処理速度も速い。ただし、容量単価が高いのだそうだ。アンドロイドとしての容量を支えるには、どうしても値段がつり上がる。そこでExpressに用いられたのが、従来のHDDを改良した装置だ。
 しかし、HDDは構造上、どうしても衝撃に弱い。このため、Expressは屋内での稼働が望ましいとされ、取扱説明書では一室内での使用を推奨している。最も、ほとんどのユーザーはそれを守っていないらしいが。レンだって、リンが一室に閉じ込められるのは嫌だ。
 けれど、HDDが壊れることは、記憶をなくしてしまうことと同義だ。どの程度の衝撃まで耐えられるのか、初めてボーカロイドと暮らす自分には分からないので、念のため検査をするのだと、マスターは話した。
 検査結果に異常なしと表示されたのを見て、レンもマスターも胸を撫で下ろした。考えてみれば、テレビに映る街にはボーカロイドが溢れている。庶民に買える値段ではないProが、あんなに出歩いているわけはないので、多くがExpressのはずだ。外に出れば転ぶものもいるだろう。Proに比較して壊れやすいというだけで、案外Expressも丈夫なのかもしれない。



「レン!レン見て、すごいよ!!」
 はしゃぎきった声に、我に返る。皿を持って戻ると、ダイニングテーブルの上に、箱から出されたケーキがあった。レンも、本物のケーキを見るのは初めてだ。
「すげー、綺麗」
 真っ白なクリームの上に、”Merry Xmas”と書かれたチョコプレートと、赤い実をつけた柊の葉のレプリカが載っている。ケーキの横には、苺が3つとサンタクロースのロウソク。
「ねっ、マスター、このイチゴのせるの?!」
「へえ、『デコレーションケーキ』ってそういうことか。なるほどね。いいぞ、載せて」
 嬉々としてロウソクの袋を開けるリンに、これにして良かった、とマスターが呟く。普通は、始めから苺やサンタが載っているところを、デコレーションを楽しむためにあえて別添えにしてあるらしい。いまさら感心しているところを見ると、マスターはそういうケーキだと気づかずに買ってきたようだ。
「レンはこっちとこっち、どっちのせたい?」
 片方はサンタと苺1つ、もう片方は苺2つだ。どちらでも良かったが、苺2つの方を選ぶ。リンが目を輝かせた。慎重な手つきで、サンタをケーキの真ん中に置く。その周りに、二人で苺を飾った。
「これ、火つけるんだよな?」
「あ?ああ、そうだな。ちょっと残酷だが…」
「は?」
 お茶の用意をして、いよいよ火をつける時になって、レンはマスターの言葉の意味をようやく理解した。頭から溶けていくサンタに、リンが悲鳴をあげて火を吹き消した。
「サ、サンタさん溶けちゃうかと思った…」
「確かに残酷…」
 マスターは二人の反応にくつくつ笑いながら、ケーキを切り分けてくれた。一口頬張って、リンがとろけそうな笑顔になる。興奮で頬がバラ色に染まっている。
「…お前らって、ほんとによくできてるよな。人間かと思うよ」
 その顔を見てか、マスターはそう言った。でもやっぱり、人間には遠い。今レンが美味しいと思っているケーキだって、そうインプットされているからそう感じるだけだ。少し設定をいじれば、途端に食べられなくなる。バナナが好きなのも、デフォルト設定がそうなっているからなのだ。それはリンも同じだ。いや、レンにはまだ、「嫌いなものを克服する」というプログラムもあるが、リンにはそれさえないだろう。好きか、嫌いか。設定次第で一気に切り替わる。

 それでも、こうしてケーキを囲む瞬間が幸せだと思う気持ちは、きっと人間に近いのだと。レンはそう信じている。



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近くの店で、クリスマスグッズが半額になっていたので。

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こちらは管理人シロセが個人の趣味で萌を語るブログです。同人的要素を含みますので、苦手な方はブラウザバックを推奨します。また、製造元・版権元・その他各企業様とは全く関係ございません。
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