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Buptiga

ぼーかろいどのキャラデザに惹かれた管理人が萌えを語るためのブログ。最愛は白リボンの黄色い子。
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非機能要求、ゼロ

アンドロイド?鏡音。

ちょろっとマスターが出てきます。
苦手な方はご注意を。


------------------------



 瞼を持ち上げて最初に飛び込んできたのは、二つの青いガラス玉だった。否、一対の瞳だ。それも、自分とお揃いの。
 ウィン、と軽く音を立てて視界が広がる。テーブルを挟んで、青の持ち主が椅子に腰かけていた。肩までの金髪、リボン付きの白いヘッドセット、ノースリーブのセーラーに、黄色のリボンタイ。鏡音リンだ。
 そろりと視線を動かし、自分を見下ろしてみる。半袖のセーラー、細身の黄色いタイ、黒いハーフパンツ。そして何故か、白いビニール紐。新聞紙を束ねる時に使われるそれが、自分―鏡音レンのボディを椅子にしっかりとくくりつけている。視線を戻すと、どうやら彼女にも同じものが巻かれているらしかった。
 これはどういった状況だろう。疑問を共有したくとも、向かいの青い瞳は、未だ何も映していない。
 記憶がなかった。メモリもSSDも真っ白だ。けれど、知識はある。2人が席についているのは、ダイニングテーブルだろう。レンの右手側にはキッチンコーナーがある。正面、鏡音リンの後ろはささやかなリビングスペースで、大きくとられた窓の景色から、ここがマンションであると知れる。リビングの左壁には、白黒のシンプルな時計が掛かっていた。9時だ。外は明るいから、朝の9時だろう。
 がたりと音がした。時計と反対側の壁、二つ並んだ扉の方からだった。木目の枠にガラス窓のついた扉と、壁と同じアイボリーの引き戸。聴覚を澄ますと、引き戸の奥に人の気配がする。

マスター。

 そうか、自分達は購入されてきたのか。だとしたらパッケージらしきものが近くにあっても良さそうだが、片付けたのかもしれない。
 ボーカロイドの起動というのは、こんなものだったろうか。目覚めると隣に人間がいて、はじめましてマスター、とでも挨拶するのがセオリーではないのか。いや、引き戸の奥にいる人物が出てきたら、そういう会話もあるかもしれない。
 しかしせっかくなら、鏡音リンも一緒に起動して欲しかった。そう思って再び向かいに注意を戻し、気がついた。微かに作動音がある。起動中か。確か、初起動時は少し時間がかかる。個人差でレンが先に起動を終えたのかもしれない。少し肩の力が抜けた。

がたん、すぱん。

 呆気なく勢いよく、アイボリーの引き戸が開いた。スーツを着て口にネクタイをくわえた男と、目が合う。お、と口が動いて、その拍子にネクタイが落ちた。
「起きたか。さすが早いね。助かったよ」
 忙しげに床からネクタイを拾って、首に掛ける。手早く結びながら、彼はレンの横を素通りして、キッチンに立った。
「悪いけど、急に仕事が入ったんだ。リンはまだだよな?」
 棚をがさごそとやって、何か取り出す。それを大皿に無造作に盛って、どん、とダイニングテーブルの真ん中に置いた。
「じゃ、リンが目覚めたらよろしく」
 引き留める間もなく、視界から消える。慌てて身を捻ると、レンの後ろ側には玄関があった。彼が靴を履いている。今度は口に、食パンをくわえていた。レンに気づいて軽く片手をあげる。そのまま思い切り扉を押して、出ていってしまった。ゆっくり扉が戻ってくる。カチャリ、ピピッ。オートロックのかかる音がやけに大きく響いた。

 途方にくれて視線を戻す。鏡音リンは相変わらず、青い瞳で中空を見つめたままだ。テーブルに置かれた大皿には、小ぶりのみかんと、シュガースポットの浮いたバナナが山盛りになっていた。自分達のマスターは、悪い人ではなさそうだ。ただ、せめてビニール紐は外してほしかった。
 することがないので、レンは自分の相方をじっくり観察することにした。窓から差し込む日光が、色素の薄い髪を透かす。幼さを残す仕様の頬は、白くていかにも柔らかそうだ。ゆるく結ばれた唇は今にもしゃべりだしそうなのに、先程からぴくりとも動いてはいない。光の落ちた瞳は玩具めいて、そこに映るものを拒んでいた。何て精巧な作りだろう。そう思うことは、自画自賛に値するだろうか。

 ふと時計を見ると、いつの間にか正午をまわっていた。遅い。いくら個人差といっても、起動時間にこれ程差が出るものだろうか。鏡音リンの作動音は相変わらず続いている。
 機械の身体を持っていたとしても、レンに機械の知識はそれほど備わっていなかった。そういう機能がない。分かるのは、歌うときに必要な箇所の調整方法と、自分のボディの不調快調くらいだ。鏡音リンの起動に時間がかかっている理由はわからないし、対処の仕方も知らない。だから、自分がこの椅子から立ち上がって彼女の側にいったところで、何の意味もない。
 レンは身を捩って、ビニール紐からの脱出を試みた。ガタガタと椅子が揺れる。腕だけでも抜ければ、後は結び目をほどくだけなのだが。更に身を捩ると、椅子が傾く。あっと思った時には、床に横倒しになっていた。しかしお陰で、体勢が安定した。もともとそこまで強く縛られてはいない。肩あたりの紐を床に擦ってずらし、背もたれから外す。輪が一つ外れてできた隙間から、レンは手を抜くことに成功した。
 あとは簡単だった。紐を解き、レンは立ち上がった。椅子を元に戻してから、鏡音リンに近づく。剥き出しの肩にこわごわ触れる。暖かかった。
「……リ、ン」
 声が掠れる。そういえば、声を出すのは初めてだった。もう一度、きちんと発声しなおす。
「リン」
 反応はない。レンはひとまず、彼女の紐も解いてやることにした。結び目をほどいて緩めると、ずるりと身体がずり下がった。咄嗟に支える。このままでは椅子から落ちてしまう。レンは部屋を見回して、リビングスペースのソファに目をつけた。何とかリンを抱き上げてそちらへ移し、息をつく。あのビニール紐は、椅子から落ちぬようにとの配慮だったらしい。

 ソファに並んで腰かけてみる。13時。マスターは、何時に帰ってくるのだろう。
 微かだった作動音が、ふいに大きくなった。息を詰めてリンを覗きこむ。一秒、二秒、…十秒。すうっと、作動音がもとの大きさに戻った。十秒、二十秒、三十秒。何も起こらない。一分経ち、二分経ち、三分を過ぎたところで、レンは急に不安になった。もしかして、起動中は動かしてはならないとか、そういった決まりがあったりはしないだろうか。そういえば、ソファにだって二人座れるのに、何だってダイニングの椅子にくくりつけられていたのだろう。何か理由があったのではないか。
 居ても立っても居られなくなって、レンは部屋を歩き回った。何か、説明書のようなものはないのだろうか。リビング、ダイニング、玄関にキッチンまで確認したが、目ぼしいものはない。躊躇いつつも、マスターの出てきた引き戸に手をかける。
 開けると、モノトーンで統一された部屋が現れた。一見して持ち主にこだわりがあることがわかる。室内はよく片付いていた。しかし、クローゼットだけは半開きになって、ネクタイが数本はみ出ている。本当に急な仕事だったのだろう。
 ざっと見回しても、やはり説明書のようなものはない。念のため棚も探したが、レンにはよくわからない本ばかりだった。
 マスターの部屋を出て、隣の木目にガラス窓の扉を開ける。短い廊下だ。壁と同色の扉が左右と正面、合計で三つある。左はトイレ、右は風呂だった。突き当たりの扉は、マスターの部屋と同じ引き戸だ。開けてみると、何もなかった。引っ越し前のように、本当に何もない。敢えて言うならクローゼットの中に、圧縮袋に入った布団が二組置いてあったくらいだ。
 リビングに戻る。リンに変化はない。ダイニングテーブルの大皿が目に入ったが、自分一人では食べる気にもなれない。八方塞がりだった。14時。マスターはいつ帰るのだろうか。はやく帰ってきて、リンの様子を見てほしい。
 再びソファに背を預けて、リンの左手をとる。自分の右手と指を絡めた。暖かいから、きっと大丈夫だ。自分に言い聞かせて目を瞑る。
 眠ってしまえたらどんなに良かっただろう。それからレンは、夜になってマスターが帰るまで、ときおり強くなるリンの作動音に気を揉み続けた。


 マスターが帰ってきてすぐ、リンは起動した。まるで彼の帰りを待っていたかのようで、少し面白くなかった。レンなど、いつまで経っても帰らないマスターに、しまいには怒りさえ湧いていたというのに。後々聞いたところによると、ダイニングテーブルに座らせたのは、食事をする時寂しかったからだそうだ。届いたのが月曜日で、仕事のない土日にゆっくり起動させたいと思ったものの、待ち切れなかったらしい。結局ゆっくりできるはずの土曜も、仕事が入ってしまったわけだが。説明書は、マスターの部屋にあるPC内のファイルにあったようだ。いまどき紙の説明書を探すなんて、ロボットの癖に古い考えだなと笑われた。レンの機嫌が更に悪くなったことは、言うまでもない。


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書きたかったことは別にあったはずなのに、とりあえず起動編を書いてみたら無駄に長くなりました。
おかしい。

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